ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う


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前作『ヌードの夜』から17年後、まったく同じ絵で物語がはじまる。新宿近くのガード下、大雨の夜、古びたコンクリートの壁に「なんでも代行屋 紅次郎」のチラシが車のヘッドライトで浮かんで、そこに同じデザインのタイトルがどーん。主人公紅次郎(竹中直人)は前作の青年っぽい硬さが完璧に消えて、とろっとした小父さんとして完成形に達する。どこかの倉庫を改装して事務所兼ねぐらにして、そこには17年前を思い出させるネオンやティントイの小物が置いてある。
ストーリー:れん(佐藤寛子)は母あゆみ(大竹しのぶ)と異父姉の桃(井上晴美)がやっているスナックに転がりこむ。れんをあゆみに生ませた男、山神(宍戸錠)のもとから逃げてきたのだ。あゆみと桃は老人に保険をかけては自殺にみせかけては殺し、樹海の奥の石切り場に放置するシリアルキラー。手伝わされたれんはドジを踏み、リカバーを代行屋次郎に依頼する。だんだんと3人の女の犯罪に吸い寄せられていく次郎。ひょんなことから知り合った刑事ちひろ東風万智子)は犯罪の匂いを感じ、彼の行動をフォローするようになる。ある晩3人の女は山神を店に呼び出す。そこには次郎も呼ばれていた…

次郎が熟成したおっさんとなったのとは逆にヒロインは若返り20代前半の佐藤寛子になる。前作は同世代の男女だったけれど、今度は親子世代だ。次郎のれんへの気持ちは恋愛というより「こんなひどい目にあわされて…!」という義侠心めいたものになる。劇場公開版ではれんと次郎の関係はぼかされていたのか、より父子っぽいものに見えていたふしもある。でも僕がみたDVDのディレクターズカット版ではちがう。かんたんに言うと二人はふつうにセクシャルな関係になっていて、しかも竹中直人はかなりな役得なのだ。本人どこまで楽しんだかは別として、そうとうなことになっている。これで父子だったらインモラルすぎる。というか物語ではすでに実の父子が十分すぎるくらいなことになってしまっているんだから、それが繰り返されているともいえる。

前作のヒロイン名美が弱さも間抜けさもある等身大っぽい女性だったのに対して、れんはそうとうエクストリームなキャラクターだ。若いけれどはるかに悲惨で、確固とした意思も実行力もあり、しかも最終的にはモンスター的なわけのわからないところへ昇華していく。設定上は「少女のおもかげがある女」なんだけど、正直それよりは身体の主張ぶりも含めてぐいぐいと物語を引っぱる強力なヒロインだ。顔は地味だけどね。あゆみと桃は、これまた振り切ったキャラクターで『冷たい熱帯魚』の村田とまったく同じ行動原理だ。あゆみ役大竹しのぶのがらっぱちで犯罪なれしたおばさんキャラはほとんど爽快ささえ感じさせる。れんもこの二人にかかると舞踏会に行く前のシンデレラみたいになってしまうのだ。

物語はそんな感じで前作にくらべるとドライに進んでいく。途中、津田寛治の面白すぎる殺され具合もふくめて、出来事はインパクトがまし、プレイヤーも増え、感情移入はあまりない、という具合だ。次郎も前作以上に間抜けな存在になる。もはや格好よくヒロインを救うなんてできない。彼女を守ると誓いつつ、実は3人の女たちの計画にずっぽりはまっていくにすぎないのだ。「わかっていてだまされる」のが次郎の持ち味ではあるのだが、やすやすとれんにハメられて目をうるませる姿には前作のハードボイルドっぽい香りはみじんもない。そんな彼をなぜか支える女性が刑事のちひろで、彼女は全方位的に善の役。この東風万智子が意外にもいい。最後まで元だれだったのか分からなかった。当時の彼女は別に好きでもなかったけれどこの映画では妙にいい。役どころとしてもきちんと事件と次郎の心とに整理をつける大事な存在だ。

それにしても、クライマックスのシーンは結局どうなんだろう。富士の樹海の奥といいつつ、風穴じゃなく栃木にある大谷石の採掘場跡でロケしている。地下の石を切出した跡が巨大な石積みの神殿のようになったところだ。映像映えもするし実物は映像以上にインパクトがある。その豪快すぎる空間で最後の修羅場が展開する。ここからはちょっと「あれっ?」的部分がなくもないし、しかも最後はれんの全裸独白がはじまるのだ。ストーリー上はれんの心象風景のようなもの。ここまで追い詰められていた女だという吐き出しがないと、さっき書いたみたいに実行力のありすぎる強い犯罪者に見えてしまう、というのがあったのかもしれない。でも正直そのシーンはあまりに長く単調だった。