ヤング・ゼネレーション(Breaking away)


<参考(imdb)予告編>
やわらかい映画。青春映画の一つの傑作にラインナップされてる1979年の作品で、総合的にはわりとのんびりした青春だ。時代か。1979年。大統領でいえばカーターだ。あのジョージアンの顔。さすがに今のアメリカ諸問題を処理するにはのんびりしすぎた顔に見える。
主人公たちはインディアナ州ある街の生まれ。シカゴから350kmくらいの石切り場がある田舎町で、主人公の父ももとは石材工場の主任だった。今ではロードサイドで中古車を売る。高校を卒業したばかりで進路がきまらずニート化している4人の仲間は石切り場跡の池に泳ぎにいくのがレクリエーションだ。地元っこはようするにそんな感じなわけだ。だいたいストリートビューで見ても30年前の映画の風景とたいして変わってない気がするよ。でも街は彼らだけじゃない。名門大学がある。善兵衛もとい全米でも有数のスポーツ強豪校だ。よそからきた寮住まいの大学生たちが楽しい感じでやっている。もちろんそこには女子大生も大量にさんざめいている。坊ちゃん学生はメルセデスのオープンなんかに乗ってきゃあきゃあ盛り上がる。高校ではジョック(いけてる体育会系)だった地元ボーイも卒業してしまえば無学な田舎のボンクラ。基本はそういう「大学にいけない地方の労働者階級」と「大学に行かせてもらえる中流」の格差のものがたりだ(そこから人種問題を排除している)。しかしこの大学、いかにもアメリカの大学っていうこのオープンなゆったり感…。アメリカの伝統校のキャンパスはイギリスの古典庭園・風景式庭園直系のデザインだからふつうに美しいんだよなあ。

主人公のデイヴは自転車おたく。ぱっとしない田舎町から遠くはなれたイタリアにあこがれる。たいした情報はないからイタリア語を勉強して日常会話に気持ち悪くまぜ、ラテンな感じでおおげさにハグしたりほっぺたをくっつけたりして気持ち悪がられ、カンツォーネのレコードを聞き、イタリアのロードバイクのチームがアイドル…ニコラスはイタリアチームがゲスト参加する街のロードレース大会にむけて燃える。自転車で実力を認められれば、ひょっとすると道はそのままこの街の外につながるかもしれない、彼は夢見る。おまけにイタリア人留学生のふりをして女子大生となかよくなったりもする。
この映画のほわっと明るい感じは、いわゆる「スクールカーストもの」とちがって4人の青年がそこそこスポーツマンだというのもあるかもしれない(もちろん暮らしぶりがほどほどだというのがまずある)。うっくつはそれなりにあっても、わりと心身ともに健康なのだ。日本でいえば『バタアシ金魚』みたいな感じかな。デイヴだって困ったオタクなわりにはけっこうな実力なのである。最後はアメリカ映画らしくスポーツ(団結+根性)で気持ちいいカタルシスがやってくる。理解あるパパもママも大喜びでそれを祝福するのだ。パパは頑固もので息子のイタリアかぶれに文句を絶やさないナイスガイなのだが、息子の努力や挫折をちゃんと受け止めて、「オレみたいになるなよ」という感じで息子に未来を託し、最後は自分も自転車に乗るようになる。
70年代感あふれるクラシックなロードバイクのシーンも楽しい。ただ、あれかな、レースシーンはドラマの盛り上がり用にチューンされていて、実際のレース展開がどうこうという話じゃなさそうだ。クライマックスは大学のダートのグラウンド(1周1/4マイル)をシングルスピードのロードで200周するという実在の大学伝統の大会。ゴールまでたぶん上位で8時間くらいかかる。1周400mしかないから、上位は何十周もラップするわけだ。ぼーっと見ていても上位がどこだかぜったい分からない。今なら電子チップを自転車につけて自動計測するはずだけど、昔はどうやって順位を計測してたんだろう。
1979年の自転車おたく。デイブとほとんど同じ年(1961年生まれ)のアメリカ人、グレッグ・レモンがアメリカ人として初めてツールドフランスで優勝するのはそれから7年後の1986年のことだ。