現金と美女と三悪人 ー熱泥地ー

<参考(ただしストーリーがちょっと違うような・・・)>
珍品。市川崑のキャリアの最初期で、 彼の作品のなかではたぶん怪作あつかいになるんじゃないだろうか。シーンのつながりも悪い奇妙な映画だ。1950年新東宝製作。新東宝という会社は東宝からのスピンオフみたいな形で1947年に創業(1961年倒産)、後期はエログロや無国籍アクション路線に行く。市川はしばらくこの会社に在籍し14作を撮る。この映画はのちのエログロ、無国籍を十分に思わせる内容で、藤田進や東野英二郎のようなそこそこ売れているスターが出演していて、主人公は利根はる恵が演じるヒロインのカツミだ。
ぼくは正直いってこの時代このジャンルの日本映画をほとんど見ていないから、この世界がどんなものなのかよく知らないが、カツミは(おそらく)戦後の開放的な時代の空気を一身にまとったような、セクシーで派手で、たくましく、愛にどん欲で、それでいて情に厚い、ソバージュなんだかちりちりパーマなんだかよくわからない髪型も素敵な、そんなヒロインだ。胸も大きくてそれを強調するみたいなタイトなセーターを着せられ、東野英二郎が演出なのか自己演出なのかうしろから露骨に揉んでみたり、というなかなか面白いシーンもある。「なにさ!」とかいいそうなヒロインだ。
お話は日本の風土性を排除しきって、アメリカ映画の翻案みたいな世界を展開する。大衆作家木村荘十の小説が原作。この作家も知らなかったが、ちらっと見ただけでも、牛鍋屋の妾の子で、母が愛人と失踪し吉原の近くに預けられて育ち、自分は自分で他人の愛人と駆け落ちして満州に逃避行し、満州で母と再会、などといやにスケールの大きい戦前型波瀾万丈ストーリーを生き抜いている。読んでいないけれど、しっとりした風土性なんかに目を向けるタイプじゃないのかもしれない。

もちろん観客がバタくさいのを好んだ面もあるんだろうと思う。話は客船の船室から始まる。逃走中の強盗犯栗田(藤田進)に、愛人契約で連れ添うこうとになったカツミだが、粗暴な栗田をきらって部屋から逃げ出し、船室係のボーイ、御子柴(堀雄二)を誘惑して自分からシャワーで濡れそぼってみたりする。犯罪のプレッシャーか酒ばかり飲む栗田だが、それも日本酒や焼酎じゃなくカット入りの瓶に入ったウイスキー風の酒だ。ちなみに藤田進は『姿三四郎』で主役を演じた俳優。かつ後のウルトラセブン地球防衛軍長官だ。基本的に正義っぽい立派な面相の役者であって、逃避行中の粗暴な犯罪者の香りがいまいちうすいのが残念だ。シーンは一転して人里から遠く離れた山の中になる。そこにログハウス風の飲み屋があって、栗田はそこのマスターにおさまる。元医者の千葉(東野英二郎)もついてくる。彼は爬虫類的なキャラクターで栗田の犯罪を知っている風で、ここから金と女をめぐる三角関係の話になる。
そしてここらが真骨頂というべきだけれど、ボーイ御子柴がとつぜんこの山の中へあらわれる。どうもカツミを追って来た風なのだ。そこからはあえてこれを見たいという方の興趣をそぐようなネタバレはなしにするが、ちゃんとアクションも(ガンアクションも!)あり、最後にはタイトル通り熱泥地が存在感を見せる。ラスト付近のロケ風景のつながりのなさも楽しい。
この映画、もとは「熱泥地」というタイトルで公開されたのを「現金と美女と三悪人」のタイトルで40分くらい短縮再公開したもの。ワケのわからなさの原因はここにもたぶんある。