23年の沈黙


<参考 imdb>
すっかり更新をさぼっていてごめんなさい! 今回見たのは前回に続いて現代のドイツ映画。今年は自分にしてはドイツ映画を見ているかもしれない。『ザ・ファイト』『ソウル・キッチン』 出資という意味ではなにげに『イングロリアス・バスターズ』もそうだ。といってもそのくらいか・・・。さて日本ではDVDリリースだけのこの映画、基本的には地味だ。まず役者が全員地味だ。少なくとも国際的なスターは一人もいないし、強烈ななにかを醸し出す役者もいない。ちなみに女優にもはっとするような美女は皆無である。それに物語もかなり地味だ。ふたつの殺人事件をめぐる捜査側と犯人側の心理劇なのだが、予想をおおきくくつがえすような展開はない。そういう意味で語り口も地味だ。最初から最後まであまりテンションが変わらず、しょうしょう抑揚に欠けるところがある。
地味なヨーロッパ系クライムムービーといえば『湖のほとりで』(イタリア)があった。感触としてはあれに似ているような気もする。アクションなしサスペンスというある種のジャンルなのかもしれない。日本で言えば『火サス』みたいな。若い女性が被害者で、湖が出てくる所まで一緒だ。でもテイスト的にはヨーロッパのこの映画より、もっと似ている映画がある。韓国映画殺人の追憶』『母なる証明』だ。というかその影響下にあるんじゃないだろうか。画面の寒々しさと、それと対照的な流麗なカメラワーク。空撮やスローの使いかた。はっきりしたクリアな結末が与えられないもやもやしたストーリー。典型的なテクニックでの盛上げをあえて回避するような平坦な語り口。この映画、初夏の田舎町が舞台で、季節だけとればみずみずしい風景が展開しそうなものだけど、事件が起こるのが麦畑だ。一面の麦畑は「麦秋」という言葉があるようにこの季節は茶色く枯れて、殺風景な褐色の平原になる。この色合いと平坦な広がりも、ポン・ジュノの二つの映画を思い出させる。
さて映画はペドフィル(小児性愛者)がテーマだ。ペドフィルによる少女の暴行殺人。未解決の殺人事件の23年後、ほぼ同じ日に同じような少女の失踪事件が起こる。やがて死体が見つかり、それが同じような殺人事件だったことがわかる。過去の事件の犯人は最初に明かされ、彼らが次の事件にどう反応するのか、事件の担当だったかつての刑事や現役の刑事たちが二つの事件をどう結びつけるのかが物語のフレームになる。ペドフィルは、というより性犯罪者は再犯率がきわめて高いというのはよく言われることだ。そして物語もそれをなぞる。性的嗜好というのがとても矯正がむずかしく、かつその嗜好によって、成人した男がたいしたことのない男に、ほとんど理不尽なまでにやすやすと支配されてしまうすがたが描かれる。

ストーリーは実にすっきりしない。最後に真犯人がはっきりし、犯人の口から新しい殺人の意味がかたられるのだがそれがまるで説得力がない。犯人は殺人を過去の殺人の共犯者への「メッセージ」だと言うのだ。メッセージとしては偶然性に頼り過ぎだし、そのメッセージを届けることで何を期待したのかがよく分からない。演出もそうだ。刑事たちの推理も今ひとつ切れや論理性に欠ける。
事件をある意味「解決」するのが、過去の未解決事件の担当だった引退した刑事なのだが、こいつがずうずうしく現役の刑事とペアになってふつうに家宅捜索したりしていて、それならそれでこの刑事を偏執的なエキセントリックなタイプか、もしくは誠実で高い使命感を持っているキャラクターとすべきじゃないかと思うが、俳優もなんだか凡庸なおっさんだし、被害者の家族であるおばさんとできてしまったりして焦点がずれた描き方なのだ。主人公の刑事は妻を失ったダメージから立ち直れず、発作的に暴れたりするこれまたややエキセントリックな設定なのだが、これも効果的にストーリーに効いてこないから設定の意味が見えてこない。サブストーリーとして家族を失うことの意味を被害者に訊ねるという場面があるがそこから相互理解にいたるかというとそういうわけでもない。そのパートナーの女性刑事は妊娠中でお腹がふくらんでいるのだが、この設定もまったくスルーされて一度もふれられない。気になるでしょうふつう、こんな特殊な設定にされたら(と思ったら、刑事役の女優が単に妊娠をだまってオーディションに合格し、撮影中お腹が目立っていただけだったらしい!よく分からないのも納得だね!)
こういう意味ありげな設定は各所にまかれていて、なんとなく重層的な物語を見ているような気になってもくるのだが、さっき書いたみたいにどうも本筋に効果的に絡んでいない印象なのである。演出のテンポはどちらかというと平板で、スピードの緩急がない。BGMは『ゼアウィルビー・ブラッド』そのままともいうべきストリングスの不協和音で緊張感をかきたてる使いかたをこれでもか、としつこくするのだが、もとが平板なので「なんかうるせえな」で終わってしまうのだ。
というわけで書いているうちにいきおいでほとんど全面けなし気味になってしまって、このブログ中屈指の低評価みたいなことになってしまった。そこまでダメというわけじゃないです。印象としては『湖のほとりで』とおなじくらい。