ディナーラッシュ

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製作が2000年、日本公開が2002年か。映画館に見に行って以来ひさびさにDVDで見たけれど、相変わらずいい感じに軽かった。
物語はプロローグの1日と、イタリアレストランの一晩を描く。舞台もレストランの中とその周囲だけ。出演はスタッフと客。スパイスは犯罪者。
レストランと犯罪の組合せ、というのはこのサイトで紹介している映画でいえば『コックと泥棒、その妻と愛人』に通じる。(ほぼ)店内だけを舞台としているところも同じ。でもこの二つはものすごく遠いところにある。『コックと泥棒』みたいな特殊映画ではぜんぜんないし、ああいうオペラっぽい過剰さも皆無だ。香りとしてはガイ・リッチーとかに近いだろう。というか無理もないというか、監督はどちらもCM,PV畑からの人だしね。スタイリッシュなリズム感がまず似ているし、あとは変な言い方だが「ほどほど」の感じをうまく掴んでいるということだろうか。なんとなく、犯罪や犯罪組織をちょっと面白がって取り上げる(が、本当の怖さは表現しない)という距離感も似ている。ちゃんとスタイリッシュな「いい感じ」の中に回収されるタイプの犯罪映画だ。
監督ボブ・ジラルディは世代的にはガイ・リッチーよりかなり上の1939年生まれ。マイケル・ジャクソンの『Beat It』『Bad』『Say,say,say』あたりの演出で有名だ。この映画は企画物っぽいところもあって、舞台となるトライベッカのレストラン自体、監督がオーナーの人気店が店名もそのまま使われている。
レストランは、少し前まではリストランテ、あるいはトラットリアだった。つまりイタリア移民によるイタリア移民のためのマンマの味食堂だったのだ。オーナーは父(ダニー・アイエッロ)。母が死んで、今風の味を身につけた息子(エドアルド・バレリーニ)がシェフを継いで店は変身する。息子は料理の腕だけじゃなく、どうプロモーションを掛ければトレンドスポットになるかよくわかっていた。必要なら女性レストラン評論家のツバメ化する割り切りも見せる。父はメディア受けを狙った息子の料理も大混雑も嬉しくなく、クラシックなイタリアンを作れるスーシェフを贔屓にする。監督は名前の通りニュージャージー生まれのイタリア系。だからイタリアンの機微を描く資格がある・・・と簡単に言うつもりはないが、マンマの味になじみが深いのは間違いないだろう。
レストランは1Fが客席、厨房は地下にあって、料理の上げ下げは狭くて急な階段を使うしかない。そのあたりのカメラもふくめた狭苦しさが、逆に料理人やホールスタッフの動きを実際以上にダイナミックに見せる。1Fの客席も決して広いわけではないけれど、天井の高さをいかして俯瞰で見る画面などを効果的に入れて、下の圧迫感とのコントラストをうまく出している。
レストラン物ならではの客のバリエーションは、1.息子の名前に引かれるスノッブなNY文化人 2.親父がらみのアンダーグラウンド人脈 が混在して、これがまた重層的なドラマを見せる。1は例えばシェフと寝たレストラン評論家。ミック・ジャガーそっくりの女性で、その連れの色ボケ熟女的人物と合わせて極端にカリカチュアライズされる。それにギャラリスト。なんとも俗物のおやじで、連れてきたアーチストとの絡みで彼もまた嘲笑的に描かれる。2は店の乗っ取りをたくらむギャングのふたり連れ、それに親父がチェスのコマのように配置したいろいろなジャンルのプロフェッショナル・・・。それに店のスタッフも、問題児のスーシェフをはじめ、ホールスタッフたちがそれぞれにキャラクター描写されて、最小限の説明だが何度か出番があるうちにだんだんと人物像がつかめるようになってくる。上手いのだ。
その夜、父は二つの決断を実行する。才能のある息子も父の手のひらの上でころがされる。ほろっとさせられたかと思うと愕然とするような事態がまきおこる。オチが命なのでさすがにそのネタバレは自重するが、この父親、息子を育てたいのかどうとでもなれと思っているのか・・・そのあたりも「いい話」に落とし込まずにエンディングはさらっと流す。こんなBGMの雰囲気だ。