ゴッド・ディーバ 

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この日本公開時のタイトル『God*Diva』はどうなんだ。原題『Immortal』がわかりにくいということなんだろうけど、B級感と頭の悪そうな感じが漂いすぎる。ディーバて。ヒロインはひとことだって歌っていない。それはさておき、2004年公開のこの映画、前のメビウスとならぶBDの大家エンキ・ビラルが原作・監督をつとめ、未来都市風景を彼ならではのスタイルで特撮+CGで再現した作品だ。
1970年代から漫画で表現された彼の未来都市風景、ハイテク風景と、猥雑で古ぼけた構造物や埃っぽいメカなどがミックスされたイメージは、『ブレードランナー』に影響をあたえ、その後無数のエピゴーネンを経て『フィフス・エレメント』の都市風景にそのまま流用された。その流れはおおまかには押井守の『攻殻』系や、『鉄コン筋クリート』までつながっているとも言える。日本の作品の場合は、『ネオ・カルチュラル・ナショナリズム』ともいうべき別のファクターもありそうな気はするけど。
ユーゴスラビア出身のビラルの描く風景は、コミックでも映画でもどことなく寒々しい色使いと空気感で、人々は血色が悪い。この映画もそう。空も建物もいつもグレイで、ヒロインの肌は奇妙に白い。禍々しい適役のモンスターだけが鮮やかに赤い。彼の未来都市には、空中を交差しながら走る浮遊自動車のアイディアも加わる。『フィフス』では単に飛行するタクシーだったが、この映画ではトロリーバスのように空中を走る電線から電力の供給を受けながら走る車として描かれる。
エンキ・ビラルの原画
ストーリーは、ぼーっと見ていてて基本設定が頭に入っていないと分かりにくいが、それを理解すればシンプル。エンディングまできちんとけりがついて、意外にまとまりのいい話になっている。物語は古代神話的な神と、巨大企業が支配するディストピアめいた未来都市、それにやや意味不明の宇宙的な生命体がミックスされる。主人公はエジプト神話にある鷹の頭をもつ神、ホルス。ギリシャ神話にもある、暴力的で無慈悲でエゴイスティックで好色な神で、もう一人の主人公(人間)の男性に乗り移り、ヒロインを探す。
ヒロインのジルは例の宇宙的生命体がこの世に送り込んだ青い髪で青い涙をながす女性。人間の女性研究者のサポートでだんだん普通の人間に変容していく。けれどホルスによれば「宇宙に数人」のレア過ぎる存在で、ある役割のために彼に目をつけられる。モデル出身のオランダ人女優が演じるこの役はコミックそのもので画面にぴったり収まっている。主人公ニコポルは思想犯として冷凍禁固されていた設定。一番ふつうの人間のビジュアルだ。
巨大企業はメディカル系で、人工臓器や人工人体組織を製造販売している。たぶん臓器採集用に、空中に浮遊する冷凍囚人保護施設を持っている。政治家を抱きこんだ、絵に描いたような巨大独占悪徳資本主義だ。巨大企業がはなつ怪物めいた人工生命が主人公たちをたびたび襲いにくる。しかし主人公サイドにはこの世界をつくった神という、ありえないほどのオールマイティーがついているから、何の危機も生じない。ビラルは危機感の演出があまり上手くないのか、どのエピソードもどこか淡々と終わってしまう。やはりこの映画はビラルのビジュアルイメージ、世界観にひたるためのものだ。
このビジュアル、見た人が「…?」となる部分がある。CGと実写の合成の仕方だ。背景やメカについてはおいとこう。ものの動きなどは時代なりだが、古典的な美しい絵柄で重厚感があるし、メカデザインも古ぼけた表現もいい雰囲気を出している。問題は人物だ。人物はまず物語の中で何種類かいる。天然物の人間、臓器や組織を交換した人間、アンドロイド的な存在、人工生命、異星生命体、神…そういう連中が、基本的にはノーマルな人間のサイズでNYの街で混じり合っている。そしてビラルはそれを実写、比較的リアルなCG,デフォルメ度が高くデータ量がすくないCGなど、様々な手法で描き分ける。そういう色々なタッチの人物たちがひとつの画面で混じり合い、会話したりするのだ。正直これはちょっと妙だ。TVの深夜番組でよくある、CGキャラと女性アイドルが掛け合いする番組と本質的には同じだ…これは話達者な声優をあてて、リアリティのない画面の裏を想像して楽しむという、よりリテラシーの高い楽しみ方もあるにはあるんだが、本作とは直接関係ないことだ。
数年でCGのリアリティももっと上がって『アバター』みたいに無理なくミックスできるようになった(まああの人物もかなりコミックっぽいが)。しかし表現レベルが違う人物たちの対話にはさすがにシンパシーを感じにくいところがある。人物像が中途半端にリアルで、かつうそ臭いのはあまりうまい戦略とは思えない。
ただふと思うのは、『イノセンス』は3DフルCGのハイクオリティな背景の中にセル画調の人物がいた。『ベクシル』系もそれに近い。人物同士は同じレベルで描かれているから違和感はないけれど、背景との一体感は微妙だ。これだって見方によってはミスマッチを感じるだろう。そのあたりはベースになっている文化の違いかもしれない。
結論。『善兵衛の未来都市SFファンが満足できるレベルのビジュアルなのは確実!』