ベルヴィル・ランデブー

<公式>(あれ、フラッシュ見られない?)
フランス製のアニメーション、その世界もフランスならではだ。マルセイユだかなんだかのような急な坂道のある港町。自転車。やがて自転車競技ツール・ド・フランスへと話は広がる。そして古いショービジネス。古臭いジャズ。モダンジャズじゃない、戦前にフランスで流行っていたようなショーアップされたジャズだ。ジョゼフィン・ベーカーめいたものも出てくる。それにフィルム・ノワール的なギャングストーリー。彼らが乗る車は名車シトロエン2CVだ。お話はどこか夢のような破綻すれすれのストーリーで、歪んだ絵とあいまって不思議な夢のような気分にさせる。
監督シルヴァン・ショメの描く絵の世界は、シャカシャカとした荒い線で、極端にデフォルメした人物を描き、ノスタルジックな街の風景をアンバー系の色で染める。風景は縦に引き伸ばされて、不安定にゆらゆらと揺れるようだ。豪華客船も異常に縦に引き伸ばされて、とてもふつうに立っていられそうに見えないし、自転車が走る坂は悪夢に出てきそうな異常な急坂、そして車(2CV)も妙に引き伸ばされている。全体がどことなく不安感をかきたてる世界だともいえる。
この絵の世界、見た瞬間に「あれっ」と思って、ラストのスタッフロールで「ニコラ・ド・クレシー」の名前を探したけれど見つからなかった。ニコラ・ド・クレシーはフレンチコミック(BD)が好きな人ならわりに知られているだろう、今の世代の代表的な作家だ。はっきりいってその絵はむちゃくちゃに格好いいから、見たことがない人はすぐに新品の靴をはいてたとえば渋谷パルコのロゴスに行くべきだ。
監督は、ド・クレシーと美術学校の同級生で、その後もなにかとコラボしている。どういう形でかはわからないけれど彼の力が入っていると思うのが自然だろう。一部ではそれが知られなかったのか、このアニメがド・クレシーの絵のパクリだという批判がまきおこったそうだ。とにかくコミックのファンの人は、彼の絵がアニメになったものだと思っていい。ただ人物はそうとも言えない。特にさらわれた孫を救い出すために大冒険するおばあちゃん。孫はシュール系絵画のように生気のない表情でいいんだけど、主人公の彼女だけ極端に記号っぽい顔で、これがちょっと気に入らない。
そんな感じで手書き風の線がなかなか気持ちいいんだが、基本はCG化されているので、自転車の回転や走り、カーチェイスの車の動きなんかはスムースで、むしろ格好いい画面になっている。
結論。『善平衛の自転車・古いジャズ・フレンチコミックのどれかのファンならほぼ楽しめる一品!』