蛇にピアス


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この世界、僕はほとんど縁がないから、「へぇ〜 こんななんスかぁ」という感じではある。ただ刺青が、輪郭線も色のりも単純で、どことなく和彫りをベースにしたイラストみたいな感じで、正直あまり格好よく見えなかった。特に刺青師シバ(ARATA)の花札モチーフの刺青はなんだか全身刺青の凄みが感じられず、微妙な感じ・・・作風ということだろうし、その世界では「あり」なんだろうだけど。

ほぼ原作どおりだという(読んでない)。序盤、主人公ルリ(吉高由里子)とパンクな青年アマ(高良健吾)との出会いのシーンのシンプルさに脱帽した。その後アマがチンピラを撲殺したり、ルリが刺青を入れるシーンまでのテンポはなかなかいい。動機もよく分からないままにルリは決心して、速攻で刺青までいく。ところが刺青が完成してルリのテンションも一段落すると、物語のテンポも思いっきり一段落してしまう。早い話がダレる。そしてアマが失踪してルリがめそめそ泣き続けているシーンがつづくとうんざりしてしまった。ラストのちょっとしたヒネりで持ち直した気分になり、エンディングへ。
原作者がこの物語はとてもクラシックなものなので、クラシックな演出をする蜷川幸雄にふさわしい、というようなことを言っていた。たしかにクラシックである。街並みのカットなんて連綿と続く「日本映画」そのものだ。イメージカットとして何度も挿入される、電車を望遠レンズで撮っているシーンもなんだかそれっぽい。もっともこの電車のシーン、後になるほど凝ったものになってきて、タイトルの「蛇にピアス」の蛇みたいに見えてこないでもない。オープニングの渋谷駅前で480度カメラを振るシーンは、ビルのいくつかある巨大画面に人体改造モチーフの画面をつぎつぎに投影して、そこはちょっと面白かった。エッチシーンは充分にエッチだ。ただSMセックスのシーンもわりあいに穏健で、なぜか上で腰を振っているアマやシバの尻が画面中で一番目立つのが若干気がかりだ。
主演の吉高由里子はあまり知らなかった人。舌ピアスのシーンはいい感じに痛そうだ。あれを「そこまでやっていいのか」と真顔で非難する人もいたみたいだが、どう考えてもCGだろう。アマのスプリットタンもふくめてよくできている。そう考えると舌を刺されて涙をながす芝居はなかなかうまいのかもしれない。監督には「バカっぽくならないように」と指導されたという。あのギャルっぽい声やしゃべりかたは芝居なのか・・・微妙にバカっぽく見えないでもなかったんだが。
この映画、「過激な身体改造」や「暴力的なセックス」があっても、基本的には淡々とした映画だ。材料としてはいくらでも過激に突っ走れるテーマだと思うけれど、ほどほどに抑え目なのだ。身体改造といっても、服を着て口を閉じればルリはふつうのギャル風の女の子のまま。物語の途中で彼女が拒食気味になり、酒びたりになり(なぜか日本酒ぐい飲み)、シバに「異常に痩せてるぞ」といわれるシーンがある。でも彼女はまるまると健康的な顔で、体のボリュームもそのまんま。最近の後藤真希のほうがよっぽどインパクトがある。アマはキレると素手で人を殺すような強烈な男だが、最初のインパクトだけで、あとはいつそれが出るのかと観客をはらはらさせながらも、結局単なるチルディッシュな青年として去っていく。サディスティックな刺青師シバも、序盤はそこそこ暴力的なセックスをして見せるものの、後半はルリに惚れる普通の常識人になるあたりが泣ける。ラストのちょっとしたヒネリはあるが・・・まあ、主演3人がわりと絵になっていたのでふつうに楽しんで見られたかな。出演者世代の人が見ると、「TVドラマのワル」的な古臭いステレオタイプを感じるんだろうか。

結論。『善兵衛注目はけっきょく吉高由里子の<体当たり演技>ってことスか』