パコと魔法の絵本



公式HP

この映画、ビデオ屋に行くと、ジブリやディズニーの棚にポスター付きで並んでいる。お子さんとそのパパママが見る映画として、いちおう企画されているということだ。・・・でもそうか?

アプローチとしては『チャーリーとチョコレート工場』で、そこから毒を抜いた感じだから、ティム・バートンを引き合いに出されることも多いと思う。 主役のパコはテリー・ギリアムローズ・イン・タイドランド』のジョデル・フェルランドに髪型とか雰囲気がよく似ている(見た目だけね)。あんなダークな少女ではもちろんないけど・・・ところで、『パコ』、この二つの「子供が主人公のダークファンタジー」とは大きなところがちがう。 どこが? じつは主役のパコにはまったく性格設定がないのである。観客に同情させるための色々な「設定」はともかく、「性格」はほとんど、ただ可愛くて天真爛漫なだけなのだ。
アヤカ・ウィルソンは文句なしにかわいいし、この映画をポピュラーなものにしているのは彼女のルックスが相当効いている。はつらつとした芝居も無理がない。 でもパコは早い話がお人形さんで、大人の一方的な同情と愛情の対象物。そういう意味でこの作品は完全に大人目線の映画だ。

実際にドラマを背負っているのは周囲の大人たちで、キャラクターの「物語」が順に紹介されて、泣かせるドラマに貢献する。土屋アンナはメイクはともかく、「物語」をふくめてストーリー上一番可愛い女の子として出てくる。妻夫木くんの「物語」なんて子供には理解できないような苦いもの。 他のみんなもそれぞれおさらいしているが、ちょっとチープな「物語」も多いのはいなめない。
プラス、この映画の重要パートである「笑い」の部分も大人対象だ。笑いのテンポは今のTVのお笑いから借りていて(宮藤宮九郎ほどうまくないような気がする)、かつネタには40代以上じゃないとピンとこないものも。アムロ吉田拓郎、ジュディ・オング、ドリフ、彦麿呂、聖飢魔�・・・中島監督は笑いのネタ元でにやっとさせる人ではあるんだけど、今回のはしょうしょうスベり気味の印象もあるし、もっとスタンダードな笑いに絞り込んでおいた方がよかったんじゃないか。ていうか元ネタの舞台がそうなの?

監督があえてこだわったという舞台っぽい声を張り上げる芝居は、特にギャグ部分はしまいにうっとうしくなった。キャストの中で、狂言回し+お笑い担当+実は・・・というかなり重要な阿部サダヲが、同時に暑苦しさ担当にもなってしまっている。 阿部サダヲは多分お笑い演技のキレなどがすごくある人なんだと思うが、「タイガー&ドラゴン」でもなんだかげんなりしたし、コント的な芝居がどうもガサガサしていけない。

画面作りについては、ごちゃごちゃしてうるさいと思う人もいるだろう。でも、リアル追求でもなく1種類の「世界観」でまとめるでもなく。あれだけ高密度のイメージのネタをどうやって組み合わせて映像としてデザインできるんだ? やっぱりその部分でこの監督のチームは一歩抜けていると思う。 色彩については日本映画にはめずらしい澄んだ高彩度色で、いい感じのポップさがある。それに美術。監督は「窓」がキモだと言っていた。窓を中心に、そこを画面のハイライトにしたシンメトリーな画面構成がおおく、ごちゃごちゃしていてもどこか端正だ。窓の外にも、「額縁に入った」別のシーンが映しだせる。 窓からの光は、陰影の濃い人物像を描き出し、シーンごとに室内の表情を変えるのにも使われる。・・・正面から窓のある壁をバックに、手前の広い空間で俳優たちが芝居する。舞台劇を見ているような画面だ。 役者の出入のしかたも舞台劇っぽい。
撮り方では「デリカテッセン」っぽさはある。 特に室内シーンは広角レンズで奥行きを必要以上に強調して、不思議な広がり感を出したりマンガ的なクローズアップにしたり。 詳しいところはわからないけれど、セットもじっさいの設定より(特に手前を)ずっと広くつくってあるんじゃないか? 室内だけど高さもかなりある。この空間が大きい感じが、日本映画らしくないというのか、ちょっと不思議な雰囲気を画面にあたえている。
最後に、ただ肝心のガマ王子のキャラクターデザインはどうなんだ


結論。『企画としては多分、善兵衛の《こどもからおとな》まで。でも笑い部分になぜかおっさんたちの好みが噴出!』