デリカテッセン


参考情報

1991年公開。そのとき見に行った。すごく新鮮に感じたのをおぼえている。 
ひとついえることはこの映画、僕のかんちがいでなければ、確実にひとつのスタイルをつくった映画だということだ。 世界観という点では、この映画に先行して『未来世紀ブラジル』のディストピアレトロフューチャーがある。 このCM出身の監督が生み出したのは、コミックの実写化をストーリーの部分でなくスタイルの部分でやったような映像テクニックということだろうか。
ストーリーを写すだけでない、様々な映像のパッチワーク、ナレーションの入れ方、アンバーに寄った色彩、ありえない視点からのアングル、広角レンズでゆがんだ独特のパース。そしてダークな物語だけれど、コミック的なキャラクターたちのオーバーな演技によって、怖がればいいのか笑えばいいのかわからないような世界が展開する。それらのテクニックは物語を徹底的に寓話としてみせるように機能する。リアリズムを感じさせるための作りこみではなくて、実写をよりフィクショナルにみせるための作りこみ。
ジュネだけが、このスタイルの創始者ではないんだろうけれど、いずれにしても彼のスタイルは世界中に影響をあたえた。『パフューム』なんかはわかりやすい例かもしれない。日本でももちろん。 彼の後の作品、『アメリ』が強烈にヒットしたこともあるし、たとえば中島哲也(『下妻物語』や『嫌われ松子の一生』)は、影響というか、ジュネが先行した流れのなかにいるといっていいだろう。映画だけでなくて、TVドラマにもこの影響はおよんでいる。『ショムニ』なんかはそのひとつといっていい。 俯瞰の広角レンズでとったゆがんだ人物像はマンガでもアニメでも使われる。
で、そんなフォロワーたちをさんざん見てしまった10数年後、今本家を見るとさすがにあんまりインパクトはない。そして僕も歳をとった。コミック的な語り口調がときどき幼稚に見える。 
(追記。で、約20年後に、コミック的語り口に回帰した『ミックマック』を撮るのだ)
見たことがない人のためにざっと紹介すれば、本作は荒廃して食料不足におちいった「ダークな未来」ジャンルの映画のひとつ。奇妙な風貌の主人公が、奇妙なアパートに住み込みで働くことになる。そのオーナーは1階でデリカテッセン(というより肉屋)をいとなむ見るからにどうもうそうな男。その娘のフランス風メガネっ娘は主人公に好意をもっている。 その他セクシー担当の肉屋の愛人や、部屋を異様な状況に変えて生き延びる老人、自殺志望の女、なんだか忘れたが何かを一生懸命作り続ける兄弟、その他ひとくせありすぎる住人たちが、なぜかときどきいなくなり、減っていく。主人公もやがてその秘密を知り、『未来世紀ブラジル』風のあまり強くない地下組織があらわれたりして、最後はアパート全体を舞台にしたアクションがくりひろげられる。今思ったけれど、アクションのひとつは古典『タワーリング・インフェルノ』を思い出した。

美術・カメラワーク、さっきもいったようなさまざまな語り口調のテクニックがすきまなく詰め込まれ、トリッキーな演出の映画が好きな人だったら見る価値はある。音の使い方なんかちょっと凄い。DVDのコメンタリーを聞くと、CGが充分に使えない時代に、監督がこまごまと苦労したことがよくわかる(ちなみにDVDの字幕が最悪というコメント多数。そうだったっけ?わすれた)。 フレンチコミックの巨匠にニコラス・ド・クレシーという人がいるけれど、彼の作品が好き人もOKだ。世界観が似ている。というかそれ以前に、そういう人は見てるな。

結論。『善兵衛衝撃の映像テクニック、いまでも新鮮味はともかく作りこみは1級か!』