17歳のカルテ


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この映画、前に見た「クワイエットルームへようこそ」の、ある意味元ネタっぽい映画だというのもあって見てみた。
若い女性が睡眠薬オーバードーズで担ぎこまれて、女性精神病棟に入れられる。はじめは「自分はここにいるべき人間じゃない」と強情だった彼女は、そこで「外の世界」ではくらせないいろいろな人たちと付き合って、やがてここが自分の居場所であることを受け入れ・・・というストーリー。たしかによく似ている。まあ翻案したんだといわれればそうだろう。過去がフラッシュバックするあたりのつくりも、主人公が最後に出て行く感じもよく似ている。テイストはけっこう違うかな・・・プロットを借りたという感じだろうか。
ひとついえることはこの映画、とてもさらっとした映画だということだ。 もちろん、当然ある部分キツい映画だ。キツい状態にある人が、深夜に一人で見るのはすすめない。 でも「クワイエット」と較べてずっと救いがある。 大きな違いはこの映画では病棟に入っているひとたちを「病んでいる」人たちとしては描かずに「そういう個性の」人たちとして描いているからだ。
病院も映画ではヒューマニスティックな場所に描かれる。「カッコーの巣の上で」や「クワイエット」では冷徹な支配者としてすごい存在感だった婦長が、こちらではすべてを包み込む慈母としてストーリーに温かみをあたえている。 ウーピー・ゴールドバーグがグランマ的な役をいい感じで演じている。
そして舞台は60年代末。ほどよくノスタルジックな町・ファッション・音楽が色んなところに出てきて、病棟も古いレンガっぽい建物でどことなく温かい。 ひりひりしたリアリティは適度にコーティングされている。「昔話」ってそういうところがある。 それに価値観が激しく転換している時代で、「外の世界」の人間だって「まともって何!?」と(たぶん)自問自答していたのだ。だから彼女も境界性人格障害として診断されるけれど、それは同じ世代の女性の自分が見つからない、どう振舞えば言いか分からない悩みの延長に見える。
主人公スザンナを演じるウィノナ・ライダーは、自分が原作者と同じ症例(というべき?)で、原作にほれ込んで制作にも関わっているという。主人公のちょっと痛い感じはぴったりだ。「クワイエット」の内田有紀じゃないけど、この映画の後のウィノナのあれやこれやを思うと、なんだか微妙にしんみりしせずにはいられないね。

女性患者たちのボス、リサは若い頃のアンジェリーナ・ジョリーが演じている。もし「クワイエット」で彼女の役を取り入れたとしたら、女優は土屋アンナしかいないだろう。びっくりするくらい似ている。顔も似ているし、存在感も似ている。
格好いいがエキセントリックで攻撃性が強く、反体制っぽい女の子だ。 スザンナは自由そのものみたいな彼女を見てびっくりし、彼女を観察し、彼女に影響されて、やがて彼女と行動を共にする。
けれどあるショッキングな事件をきっかけに彼女から離れ、そして最後には彼女の自由が本物でないことに気がついて、その支配を打ち破る。ちょっとそこのラストはアメリカ映画っぽいわかりやすすぎるカタルシスのような気もしたが、最後には「中の世界」のシンボルでもあったリサが「外の世界」へ向かう可能性がほのめかされる。

主人公スザンナとリサをはじめとする他の入院者たちとの友情がストーリーの中心にあり、見終わった感触は心の闇と向き合うようなものではなく、まぎれもない青春友情物のそれだ。

結論。『善兵衛が「17歳」ちう邦題にだまされる!』