スキヤキウエスタン・ジャンゴ

http://www.so-net.ne.jp/movie/sonypictures/homevideo/sukiyakiwesterndjango/

黒澤明の「用心棒」スタイルの一本。あちらはウエスタンのテイストを時代劇に翻訳して、今までにない物語世界になったわけだけれど、こちらもそういう意味ではおなじ。ただ翻訳していない部分がすこし多いので、出演者は着物じゃないし、だいたい銃を撃ちまくる。そのせいでおふざけ映画にも見える。しかし真面目ぶったストーリーの、適当にやっつけた日本映画とくらべるとずっと真剣に作っている感じがする。DVDのコメンタリーの監督の話に撮影時の苦労が見えて楽しいんだが、すこし前に見た「嫌われ松子の一生」の中島哲也とあまりにちがっていたのが笑えた。
* * * * *
まあ、中島監督、しかも「嫌われ松子」となると較べるにしても極端な例なんだけど中島哲也はこれだけ聞いていると役者よりスタッフにシンパシーを感じていて、絵作りに美術さんがいかに貢献してくれたか、とかラストシーンの空撮がこの映画のコアだ、とか思い入れあるコメントはほとんどスタッフ側。役者については基本的に冷淡。ゆいいつ伊勢谷友介のことはほめていたかなというくらいなのだ。まああの作品を見れば無理もないでしょう。「世界」を一緒に作ってくれるのはスタッフで、役者はその世界のパーツのひとつだもの。だからたぶん素材として立つ役者のほうが好きで、演技力で自分の世界を打ち出そうとした中谷美紀は変な話、邪魔だったんだろう。
* * * * *
それと較べると三池監督のコメントは役者のここがいい、とかここでいかにどうだったか、みたいな話が多いんである。基本「役者を撮る」タイプの監督なんだろうか。そのせいかこの作品、役者がみんな格好よく撮れている。
嫌われ松子」でも格好よかった伊勢谷友介がこちらでもかなりお得な役。伊勢谷は同世代の映画俳優の中では半歩抜け出しているような気がする。これでもう少し体に厚みがでると海外でもいけそうだ。とはいえ映画の中では伊勢谷は敵役。無敵のヒーローは伊藤英明だ。この人も大作の主演がけっこうあるけれど私の中ではどうもキノコ男のイメージが抜けなくて困る。しかしテンガロンを目深にかぶってこちらも格好よく撮られている。
安藤政信もなかなかいい。この人は主役感はうすいけれど助演としているとピリッと締まるタイプだろうか。おっさん世代では佐藤浩一と石橋貴明だが、ガタイがいいこの二人、しかし映画的重量感では格段に差があるのがまた面白い。もちろんハリウッド・スターでない佐藤の方が重量感がある。そして木村佳乃。このひとも女優ながら「役者バカ」的な香りがする貴重なひとだ。この映画でも悲惨な汚れ役をやり切っている。
・・・という感じで、観客は、シンプルなストーリーで深く考えずに見栄えのする役者やきちんと作った映像を楽しむ、というタイプのエンターティメントの王道なんじゃないだろうか。ひいきの役者が出ていればたぶんじゅうぶん楽しめる。堺雅人ファンもOK.タランティーノ(渋い役で出演)のファンは・・・・知らん。

結論。『善兵衛が肩こらずに見るナイス娯楽!』