「ストレート・ストーリー」「世界最速のインディアン」



wikipedia:ストレイト・ストーリー
wikipedia:世界最速のインディアン

老人が主人公の映画というのは、つねにある種のスリルをはらむものになる。「こいつ、途中で死んじゃうんじゃないのか?」というはらはらが観客にあり、はっきりいえばそれが老人映画のキモである。ユーモラスな物語やまったりした物語でも、とつぜん暗転するんじゃないかという漠然とした不安感が物語に微妙な陰影をあたえるし、どこかに緊張感があるのだ。

デビッド・リンチの『ストレイト・ストーリー』も、ロジャー・ドナルドソンの『世界最速のインディアン』も老人の冒険が題材の映画。どちらも実話ベースだから、その話を知っていればだいたいの結末もわかって見られるけれど、まあ知らない人のほうが多いだろう。
この2本、ジャンル的にはほぼ同じといっていいくらい似ている。どちらもアメリカの田舎を一人で旅するロード・ムービーで、思い込んだら一直線の朴訥な老人が、旅の先々で善人たちと出会い、かれらのお人よしすぎるともいえる善意に助けられて、ちょっとした危機を乗り越えて旅をつづける。『ストレイト』は農業用トラクターでの旅だからスピードとは無縁で、より枯れた老人。『インディアン』はバイクで速度世界記録をねらう男のはなしだが、疾走シーンはそれほどなく、目的地のユタ州までいやにのんびりと旅は進み、いざ世界記録挑戦がはじまっても初期の鳥人間コンテストみたいに、その辺の材料で手作り感あふれるセッティングをくりひろげる。ビンテージバイクの爆走シーンはもちろんあるが、スピード系映画のテンションはあまり期待しないほうがいい。

この2本、主人公もどことなく似ている。『ストレイト』では田舎の農夫、『インディアン』はバイクマニアのニュージーランド人だから違うといえば違うけれど、決して意志をまげず、マイペースで、素朴で人を信じやすい、が間抜けではなく(ストリートワイズというやつ?)、持病を持っていたりするが(それがまたはらはら感を盛り上げるわけだが)基本的にいやに丈夫で、自分のことは自分でする、それどころか自分のパートナーであるバイクや車やトラクターを自分で直せるメカにも強い男だ。ようするに開拓時代の男の理想形なわけだ。これが愛されないはずはない。
まわりの人からするとちょっと大丈夫?というような純朴さなんだけれど、それがかえって人々の胸に手を当てさせるような『聖なる愚か者』的なキャラクターでもあるのだ。その一方では『ストレイト』の老人の方は焚き火を囲んで武田鉄矢ばりの人生訓を語りだしたりすることもある。純朴とはいえ老賢人的でもあるんだね。

独特の哀愁とスリルを同時に楽しめる老人映画。鍵はやっぱりその老優の味だろう。『インディアン』で滋味のあるハッピーマンを演じたアンソニー・ホプキンス、末期癌に侵されながら『ストレイト』を最後の1本としてオスカーノミネートを受けたリチャード・ファーンズワース(彼はその後銃で自殺した)。彼らの味が映画の味だ。
ちなみに『ストレイト』では主人公の兄役で彼よりすこし年下のハリー・ディー・スタントンが出てくる。『パリ・テキサス』から15年、そもそもその時点で充分に枯れていたんだが、さらに枯れた。味ね。


結論。『善兵衛が老優の滋味にまったりとひたる2本!』