愛の流刑地

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突っ込み所満載だというはなしだったから、どう笑わせてくれるのか期待して見てみたけれど、そこまで濃い口の映画でもなかったのが残念だった。「愛のありかた」についてのコメントは省略。それは映画というより淳一マターだし。
それよりも端役まで名前が分かる人を起用した金のかかっていそうなキャスティングなのに、あらゆる芝居に強烈な違和感をかもしだす演出に惚れた。鶴橋康夫カントクはベテランのTV演出家で、劇場用映画はどうやら初監督らしいが、長いTVドラマ演出の経験のなかで、役者を美しく見せることと、いい芝居を引き出す事に関しては独自のスタイルをきずきあげたようだ。
たとえば豊川悦司。これほど鼻の下が長い男に見えたのはこの映画がはじめてだ。たぶん、本人をナマで見るとそうとう鋭角的な顔をしているはずだが、いろいろ工夫している照明の効果もなく、いやにもっさりした顔に見える。長い鼻の下のうすい鼻ひげもチープさを盛り上げている。セリフの前にはかならず不思議なタメがあって、押し出すように発語するのでくさめの芝居っぽく聞こえてしかたがないし、ときには似合わないエモーショナルなセリフ回しや、突然の小走り、床を転げまわるなど奇妙なボディアクションをさせられて、結果とても頭が悪そうに見える。
寺島しのぶは、そもそも顔が好みでないので略。好きな人にはながながと正面から撮ったカットを見せられるのは至福の時間となるに違いない。ひとついえるのはカントクは寺島しのぶに「かわいい女」を見出しているということだ。これはどちらかというと長い人生キャリアを積んできた諸先輩だけにゆるされる視線といえよう。
ちがう意味でもっとも評価されているのが検事役の長谷川京子だ。絵に描いたようなセクシーOLスタイルで登場し、ひとり異常な薄着になる彼女がビジュアル的サービスになっているのは間違いない。これは「観客サービス」ということをあまりにもベタに捉えた演出の結果だと見たい。その芝居は「流し目検事」シリーズ化をひそかに狙っているとしか思えない、リアリティから遠くはなれたマンガ的なお色気キャラクター化されたもので、法廷シーンを苦笑まじりの愉快な空間に変える。
主人公に面会に来た女子高生の娘が、唐突になにかが憑依したかのごとく、むずかしい文学的なセリフを口走るシーンも捨てがたい。 その他中堅俳優の健闘が光る。妻を殺された被害者役なのに、殺人者である主人公もはるかにしのぐ凶悪さを、ありえない悪い目つきで表現する仲村トオル、キャラクター不明の弁護士として、不思議な髪型とぱっちり見開いた目で法廷劇をささえる陣内孝則、かろうじてこの不思議演出の魔空間から逃れているものの、古臭い長髪が珍妙さをかきたてる刑事役の佐藤浩一、ワルな不倫検事をまかされながら、トレーシングペーパーのような影の薄さを完璧に演じきった佐々木蔵之介、など豪華だ。 その一方これまでになく顔のたるんだおばさんとして容赦なく映された浅田美代子の悲哀がきわだつ。

画面的には、拘置所にいる間もワイシャツとスラックスを脱がない豊川悦司のスタイリッシュさ、「人工的に水を降らせている」ことをこの上なく強調している上賀茂神社の雨中のシーン、30年前のアラン・パーカー的な不思議な外光表現、意味不明なガラスへの映りこみの多用などが見所だろう。

結論。『善兵衛が感じる素敵な違和感!』