運命じゃない人


http://www.pia.co.jp/pff/unmei/cast.html


なかなかの佳品。
軽いクライム・ムービーにラブコメ風味あり、男の友情あり、というのが材料。
時間軸を複雑にしたり、視点を複雑にしたり+・・・というトリッキーな脚本とテンポの良さが調理法。
パルプ・フィクション」をすごく軽い料理にした感じというか、あとはたとえば「ディナーラッシュ」なんかの後味と似ている気がする。そのあたりの「ちょっと知的でハッピーなクライム・ストーリー」が好きな人なら楽しめるかもしれない。犯罪といってもこの2本よりもっと平和な世界でリラックスして見られる。もちろん笑える。
ただし極度の低予算映画なので、やぼったい画面ではないけれど凝った映像を期待してはいけない。分かりやすく東京西部の住宅地(重要な舞台になるレストランは違うが)である。でも貧乏くさくないのがありがたい。1夜を舞台にしたうまさもあって、よけいなものを撮らない割り切りのせいか。ちなみに最近見た日本映画で画面の貧乏臭さに驚愕したのは「昭和歌謡大全集」でした。予算はこっちの方がずっと多いはずなんだけど。
俳優たちもそれほど濃くもなくビッグネームでもないが、かえって妙な色がなく脚本の妙に集中させてくれる。とはいえ、彼らはいい。特に山中聡板谷由夏は妙にいい。カントクも言っているが板谷由夏は完全な峰不二子キャラである。特に声がかわいいので初代ルパンの不二子的といってもいいかもしれない。カントクと主演級4人がほとんど同世代で、DVDコメンタリーを聞いているとカントクと5人の役者が語っているのだが、一人だけ10歳くらい上の山下規介が微妙にずれつつ浮き気味なのがなんともいえない味わいをかもし出している。
しかしコメンタリーでは同世代の輪からはずれる彼=ヤクザが、本編では下手をすると単なる同級生スケッチにはまり込みそうな世界の重心となり、ストーリーにテンションを与えているのだ。最初ははらはらさせた部分が、そのウラで起きていたことが明かされてていくに従って「なぁんだ・・」と徐々に笑いとナゾが解ける気持ちよさにかわっていき、後味はなかなかいい。それにしても映画のカメラというものが、観客には無意識に世界の全体を写しているように思わせながら、実は死角の方が多い「眼」なんだ、ということをカントクはすごく理解していて、うまくストーリーに落とし込んでいる気がする。

結論。「善兵衛がうなる達者な構成!」 あるいは「善兵衛が板谷由夏に恋をした!(笑)」