アズールとアスマール

<公式>(必見!)
今回まで4回ほどシリーズ的にフランスのコミック/アニメ系映画を取り上げてみた。どれもメジャー公開されたものだし、ふつうにレンタル屋にもある(アルザックはのぞく)、っていう意味ではこの世界の入り口みたいなものでしょう。ちなみに、うち2本はスタジオジブリ配給だ。ジブリはえらい。そういう意味でも。
さてこの映画、フランスで2006年に大ヒットしたCGアニメーション
とにかく、できるだけクオリティの高い映像環境で見た方がいい映画。 というのも画面の精細さが半端ないからだ。 ただしその精細さのベクトルは他の商業アニメ、CG映像とちょっと違う。ふつうクオリティを高めるときは、テクスチャーの再現度と動きの情報量をあげて、リアリティを追求する。マンガ風なピクサーのCGでも、映り込みや毛並みの描写を細かくしたり、あるいは「演技」のキメを細かくし情感を演出したり、リアリティ方向に情報量をふやす。
しかしこの映画の場合は、絵がマンガ的でもなく実写的でもなく、ある種の絵画的なのだ。どんな絵画かというと、手法として近いのはクリムトの絵だ(ある種の聖像=イコンのようでもある)。人物の顔はリアルに、立体的に描く。しかし衣装は完全に装飾美術として描きこみ、立体感やシワなどではなくてパターンとしての美しさを重視する。背景はもっとそうで、自然の景色や室内の装飾は、様式的な美しいパターンとして描かれる。この建物の装飾が美しすぎて、その視覚的快感が映画の魅力のメインといってしまってもいいかもしれない。色彩設計は日本のアニメの少し濁ったトーンやアメリカ系のポップな色合いとも違って、澄んだ色調のビビッドなトーンだ。
映画のコンセプトはものすごくはっきりしている。フランス人やその他のヨーロッパ人に対して、かつては自分たちよりはるかに先進国だったアラブ文化の国々へのリスペクトを思い出させて、相互の交流と、さらにその先の融合にハッピーな未来があると示唆する。それを「美」という切り口で、説教くさいメッセージをつかわずに納得させる。物語自体、単純化したシンボリックなシーンの連続で、子供にも理解できるすごくストレートなものだ。細かい解説は、もう公式を見ときなさい。監修高畑勲のあまりにもよくできた解説と監督の言葉がすべてのレビューを無化するであろう。
舞台になったマグレブ(アラブ系の北アフリカ諸国)の風景は、ファンタジックに再構成されて、監督いわくトルコやペルシャの文化も取り入れて、リアリティより美しさを追求したという。当のアラブ文化圏の人から見ると、とんちんかんなデザインになっている恐れは充分にあり、「よ、横浜に城ーッ!?」という『ラストサムライ』を見た日本人のような突っ込み気分が噴出する可能性はある。
ただ『ラスト・サムライ』が、別に日本人向けに作られているんじゃないのと同じように、この作品も主としてアラブ文化圏の外の人にすばらしさを見せる映画だから、少々誤解が生まれるとしても、致命的なものじゃないということで、そこは大目に見るのが大人のたしなみなんだろう。
監督ミシェル・オスロはフランスで生まれ、アフリカ、アメリカ合衆国での生活を経てアニメ作家になった、ヨーロッパの文化人に多いコスモポリタンタイプ。監督の前作「キリクと魔女たち」はどこの国かはともかくたぶん西アフリカを舞台に、切り絵式人物と装飾的な背景美術で描く、こちらも視覚的快感に満ちた作品だ。
結論。『善兵衛ならぬ全仏絶賛の美的体験アニメ! ポリティカリーにも超コレクト!』