姿三四郎


さて第一回からものすごく古い。

黒澤明、1943年のデビュー作。

序盤で、三四郎が脱ぎ捨てた下駄を中心に季節の移り変わりを表現する可愛いシーンがある。若い監督らしい、わかりやすいヒネりで好感が持てる。

さてこのストーリー、古来からあった柔術から講道館柔道がメジャーになっていくあたりの群雄割拠的な時代のはなし。今のように四角いスペースでポイント制でやるようなスポーツじゃない、完全に武術ですね。だから投げた相手が死んでしまう「投げ殺す」なんていう言い回しが出てくる。
さてここで面白くも不思議なのは、この投げのシーンで、相手が「ぴゅ――――っ」という感じで10メートルくらい先まで飛んでいき、さすがにそれだけ飛ばされると無茶苦茶ダメージを受けて、それでもぷるぷる震えながら何度も立ち上がったりするのだ。まさに、今でもチープな格闘アニメで30分に5回くらい盛り込まれているあのシーンの原型みたいなものである。
役者が「日本のモーガン・フリーマン志村喬(ていうかこっちの方が全然先輩だが)なので漫画っぽく見えないけれど、これ、じっさいはかなり漫画的な演出である。この手の表現、いきなり黒澤の発明なのか? ちょっと考えにくい。
多分、すでにメジャーになっていたディズニーやMGMのカートゥーンアニメや、アメリカのスラップスティックコメディーにある誇張された動きの影響なんだろう。和風の画面だけれど、いうまでもなくこれはアクション娯楽映画。だから当時最新の流行の(それも娯楽映画ならではの)映像表現がはいってきてもおかしくない。あまり根拠はないけれど、そんな気がした。
なんというか、クラシックムービーだと無意識に大人向けと思ってしまいそうだけれど、もちろんそんなことはなく、かなり分かりやすく中学生でも楽しめるタイプの映画なんですね、これ。
ラストは強風が吹き荒れる草原での決闘。どこかと思っていたら、箱根の仙石原だそうだ。あの抜けのいい景色にはなるほど納得だ。

結論。 『善兵衛が喝采!!』