90年代と小沢健二と女の子(その1 Sunny 強い気持ち・強い愛)

f:id:Jiz-cranephile:20200613212753p:plain

f:id:Jiz-cranephile:20200613212804p:plain


<予告編>

ストーリー:夫と高校生の娘と暮らす奈美(篠原涼子)は病院でぐうぜん旧友と出会う。高校生の時の親友、芹香(板谷由香)だった。20数年ぶりに合う芹香は末期がんで余命1ヶ月だった。芹香の頼みで高校時代の親友グループ〈Sunny〉の仲間たちを探す奈美。高校時代、90年代半ば、無敵の女子校生だった日々がよみがえる....

韓国映画Sunny』のリメイク。大根仁監督、2018年の映画だ。韓国映画のリメイクといえばこの前書いた『怪しい彼女』、どっちもプロットが強い作品だ。過去と現在を行き交う物語の構造が明快だし、コメディと確実な泣かせがきっちり用意される。音楽が物語に効果的に組み込まれて、女優の可愛さも存分に見せ所がある。

本作は『怪しい彼女』ほど忠実なリメイクじゃない。基本的ストーリーはまったく同じで、場面展開やキャラクターもオリジナルをすぐに思い出すような作りだ。ただ、Sunnyのメンバーは7人から6人に1人減っている。あとは大根監督が『モテキ』でも見せていた、ストーリーからはなれた集団ダンスシーンが入ってきたりする。

いちばんの違いは「時代」だ。オリジナルは現代が2010年頃、高校時代が1987年の韓国。本作は現代が2010年代後半、高校時代が1990年代半ばの日本、東京・横浜あたりだ。オリジナルでは少し自由の光が差して来た、まだ消費文化も洗練される前の時代の青春。本作はバブルははじけたものの明るかった(し、自由のことなんかその辺の人はだれも心配していなかった)、ヒットソングが誰でもおなじみだった、女子校生最強時代の青春だ。そこが、オリジナルと本作の雰囲気をだいぶ変えている要素の1つだと思う。

オリジナルは、経済発展した現代から、民主化前夜の韓国を振り返る。高校生の彼女たちも街中での抗争に巻込まれるし、主人公の兄は民主化運動に参加する。振り返るあの頃は「自分たちはきらきらした高校時代だけど、社会はけっこう厳しかった、年はとったけど、今の時代のほうが幸福」というバランスで、自分たちを噛み締める。

本作はそこへいくと、活気がなくなった現代から、まだ元気だった時代を振り返る。「時代も自分たちもあんなにきらきらしてた、あの頃」という、全面的に過去のほうが輝いてるバランスになってしまってるのだ。『モテキ』でもおなじみの、明るく光が散乱しているみたいな画面で描かれる「あの頃」。でもちょっと寂しい話ではあるね。

f:id:Jiz-cranephile:20200613212842p:plain

f:id:Jiz-cranephile:20200613212916p:plain

もう1つのちがい、本作はオリジナルよりももっと女性の観客に向いて作っている気がする。オリジナルは制作側のねらいはともかく、おっさんもわりと入りやすかった。高校時代の少女たちもいやに活発で路上で大暴れしたりするし、主人公だっていわゆる美少女じゃない。男女差がそこまで大きくないのだ。現代パートは、女性ならではの悩みを全員抱えている、でもそれはミドルエイジ共通の感覚でもある。

本作の少女たちは、絵的には当時メディアに出まくっていた、アイコンとしての「女子校生」。喧嘩シーンもなぜか水着で水のかけっこだ。主人公は広瀬すず。いうまでもなく美少女だ。男の観客からすれば、自分たちを投影するというよりは、おなじみの鑑賞対象だ。あの世代特有のハイテンションな会話シーンもふくめて入り込めるようには演出していない。

彼女たちに感情移入できるのはやっぱり当時そうだった女性たちだろう。本作のラストはストーリーから離れたシーンになる。そこで描かれるのは、過去のじぶんたちを大人になった私が愛しげに受け入れるし、少女時代の私も現在のじぶんを認める、そんな空気なのだ。

タイトル通りに小沢健二の「強い気持ち・強い愛」に乗せたダンスシーンが展開する。どっちかというと文化系女子よりの小沢健二でギャル系の女子校生が?という疑問も浮かばないでもなかったけれど、たぶんそこじゃないのだ。ギャルだけじゃなくて、その時代女の子だった人たちに届かせたいんだろう。

■写真は予告編からの引用

jiz-cranephile.hatenablog.com

 

26世紀青年(Idiocracy)

f:id:Jiz-cranephile:20200607132913p:plain

<予告編>

ストーリー:2005年。米軍は極秘に人口冬眠実験を行った。被験者は軍勤務のジョー(ルーク・ウィルソン)と民間人のリタ(マーサ・ルドルフ)。1年後に目覚める予定だったが不幸な事故がおこり、2人が目覚めたのは2505年だった。500年後のアメリカには1つ問題があった。長年のあいだに平均的な国民のIQが低下を続け、いまや全国民がバカになっていたのだ。はじめは犯罪者扱いだったジョーはそこでは大天才。すぐにホワイトハウスに招かれて.....

2006年のアメリカ映画。監督はマイク・ジャッジ。『Beavis and Buthead』『King of the hill』というアニメで知られている。どっちもあまり見たことなかったけれど、Beavisのキャラは一時よく見かけた。

youtu.be

本作は実写のコメディ。すごく軽く見られるお笑いムービーだった。時間も短いし、笑いも、それから映像も、どすんと来る要素はない。この映画、字幕付き(吹替えも)で普通に配信で見られる。でも公開時の興行収入は5000万円もいってない。おどろくべき少額だ。配給のFOXがしばらく塩漬けにしたあと、ものすごく小規模館数で公開し、まともに宣伝もせず、すぐに終了した。日本ではもちろん未公開。

理由は、公開前の試写で評価が最悪だった、という話もあるし、いろんな実在企業をそのまま出して笑い者にしてるのでリスクを恐れた、ともいわれるし、FOXを正面からバカにしたからだ、FOXのメインターゲット層を笑い者にしているからだ....いろんな説があって、真実は知らない。

f:id:Jiz-cranephile:20200607132937p:plain

本作は、SFタイムトリップものの形を借りて、アメリカのある種の文化、ある種のひとびとを思い切り笑い者にしている。文明の進歩的な描写は大して力が入っていない。ほとんどの人がバカになってしまったから、進歩は止まっているのだ。だからSF的にいえばややディストピア系になっている。「荒廃した未来」系だ。

本作が引き合いに出している『Wall-E』のように廃棄物が山脈になっている。『ブレードランナー2049』みたいに街はゴミゴミとして大型サインだけが目立つ。しょぼい車が走り回っているのは『ゼロの未来』とも似てる。『Wall-E』と似てるのは、人々が思い切り退化してることだ。

本作の未来人たちは、よくまあ集めたなというくらい、見た目からして頭が良さそうに見えない人たちで、全員間延びした頭の悪そうな口調でしゃべり、ところかまわない下ネタでげひげひと笑う。ド派手な色彩の奇妙な模様が入った、ポリエステル感あふれるシャツやパンツをゆったりと着こなす。

基本的にこの退化ぶりが笑いのネタであり、ちょっと真面目なテーマであり、というか全てだ。原題は『Idiocracy』、「バカ制政治」とでも言うのか、公開から10年以上たって、アメリカではある意味完全に現実になった。ちょっと前のニュースでGoogleのCEOが議会に呼ばれたというのがあった。そこで委員長が質問する。「Googleでidiot(バカ)でサーチするとトランプ大統領がヒットするのはなぜ?」

たしかに出てくる(まぁ上のニュースが出て来てるんだけど)。

本作の設定のキモは、「IQが高い人たちはあまり子供を作らない、アホはやたらと再生産する」という日本でもおなじみの説だ。日本だと「アホ」までいかないかもしれない。マイルドヤンキーとかだ。2505年のアメリカ人たちが、どの程度今のアメリカのあるあるなのかは、実際にアメリカの地方都市や郊外に住んでみないと分からないだろう。ぼくもよく分からない。

この世界ではコストコはさらに巨大化した神殿みたいな場所になり、ファストフードはさらにバカっぽい店名になり、スターバックスはなぜか風俗になり、飲料会社が経済を支配して、水のかわりになっていて、FOXテレビはさらに下世話なニュースショーを流す。しかし飲料会社が支配して水をまともに使わせない、というのは今の水をめぐる企業支配をちらっと見せている。

とまあ、そんな風刺や、お蔵入り伝説もあるけれど、見た感じとしてはそんなエッジーでもない。とことんアホ笑いにすることで毒を薄めているみたいな印象だ。主演ルーク・ウィルソンウェス・アンダーソンと一緒に作品を作っていたオーウェン・ウィルソンの弟。ヒロインのマーサ・ルドルフは、ウェス・アンダーソンのパートナー、2人そろってどことなくウェスがらみなのはなんだろう。2人とも絶妙に美男美女でもなく際立つ個性でもなく微妙な年代で、味わいだけがある。

■写真は予告編からの引用

jiz-cranephile.hatenablog.com

 

潜水艦映画3本!(その3 ハンターキラー潜航せよ)

f:id:Jiz-cranephile:20200528205534p:plain

<公式>

ストーリー:バルト海アメリカの潜水艦が消える。急遽派遣された攻撃型原潜アーカンソーは、現場の海域で敵に遭遇、撃退する。その後沈没した米ロの潜水艦を発見、ロシア艦の艦長をレスキューする。ロシア海軍基地で不穏な動きを察知した軍司令部は特殊部隊ネイビーシールズの4名を基地に送り込む。基地では大統領を迎えた軍司令官がクーデターを図っていた....

2018年公開。残念ながら興行収入はあまりふるわなかったみたいだ。たぶん、『レッド・オクトーバー』や『クリムゾン・タイド』と較べても後年名作ランキング的には負けるだろう。なんというか、2作とくらべるとB級感が高まってるのだ。いやB級ともちがうかな、つまりはポリティカル・サスペンスとか人間ドラマとかの要素は薄くて、アクション娯楽作なのだ。

だから視覚的快感はじゅうぶんにある。実をいうと潜水艦3作、見たのは本作が最初だった。だから潜水艦モノのお約束や過去作のオマージュ部分にあまり気をとられなくて新鮮な気持ちで見られ、どのディティールもわりと楽しかった。軍関係の考証をかなりしっかりやっていて、潜水艦の内部セットや人々の動きもリアル指向らしい。実物映像も多いんだろう、嘘くささがない。

f:id:Jiz-cranephile:20200528205559p:plain

ネイビーシールズの装備や行動はどこまでリアルか知らないけれど、たとえば銃器は東京マルイこのページを見るだけでも、マニアも噛みごたえがある設定になっていそうだ。あと、今の軍事モノらしく、シールズたちの情報収集・通信システムが恐ろしく洗練されていて、現地の高精細な映像をアメリカ本国の司令部でもさらりと共有している。ここまで出来てるか?と思わないでもないけれど、新鮮でもある。

いうまでもなくCGも進歩して、潜水艦VS潜水艦、水上艦VS潜水艦、地上VS潜水艦などいろんなカードのバトルが精細かつ派手に見せられる。プラス、ネイビーシールズの超人兵士たちのたった4名の潜入作戦。本作、アクションの主役は地上戦のほうで、スリリングな見せ場が最初から最後までつづく。ここでもオトコのブラザーフッド的なやつとか「待たせやがって....!(ギリギリで命を救われながら)」的展開とか、隙がない。

f:id:Jiz-cranephile:20200528205624p:plain

お話自体はわりとファンタジックだ。まず危機の引き金がロシア国防相のクーデター作戦。それで戦争を起こして国内を掌握したいらしいのだが、無理でしょ。大統領を監禁しただけじゃ。基地の部下せいぜい何百人しかいないのだ。米国司令部も「世界大戦の危機だ!」みたいにおびえるのだが、慌て過ぎの感もある。ロシア大統領がプーチンエリツィンゴルビー的な風貌とかけ離れたイケメンマッチョなのも娯楽作っぽい。

アイディアは過去2作にかなり負ってるといわざるをえない。5つのエレメントがきっちりと揃う。そもそもロシア艦艦長と米艦艦長が同じ艦に乗り、協力して、お互いにリスペクトする展開が『レッド・オクトーバー』そのままといえる。

ちなみに米艦とロシア艦はどうやって行き来するのかというと、深海救難艇という小型潜水艇を使う。甲板上部のハッチ付近に吸盤的に吸い付いて、ハッチを開ければ水中を通らずに人が行き来できる。ミスティック級というわりと古い艇で、じつは『レッド・オクトーバー』で使ってるのと同じ艇なのだ。どうりで似てたよ!

クリムゾン・タイド』に似ているのは、冷戦後だから仕方ないとはいえ、ロシア側が「世界の危機」の引き金になるのが同じ一部の反乱だというところ。あと、潜水艦内部は3作で一番リアルらしいんだけど、ブルー系の光が映り込んでる司令室の雰囲気は前2作と共通だ。じっさいはもっと殺風景だと思う。↓の映像に司令室らしい所も映っている。

 本作の主役、米艦の艦長は叩き上げ系。すごく慎重派だ。先制攻撃を避けるために、攻められてもひたすらしのぐ。しかもものすごく人の心に訴える作戦を取ったりする。その結果、最大のクライマックスでは国家を超えた侠気シーンが炸裂し、豪快なまでにすべてが解決するのだ。この展開には思わず笑ってしまった。全体にオトコたちが熱い心で分かりう合う物語である。

本作の潜水艦アーカンソーは現在最新鋭の攻撃型原潜バージニア級。水中で最大34ノットで航行できるそうだから、すごい性能だ。舞台になったロシア海軍基地はブルガリアここでロケしたそう。はじめはアラスカロケで厳冬期のシーンを狙っていたけれど、ロケ環境がきびしすぎてやめになったそうだ。

■写真は予告編からの引用

jiz-cranephile.hatenablog.com

 

 

 

 

 

潜水艦映画3本!(その2 クリムゾン・タイド)

f:id:Jiz-cranephile:20200527202643p:plain

<予告編>

ストーリー:冷戦終結後のロシア。チェチェン紛争の飛び火で反乱が起こる。反乱軍はミサイル基地を占拠し、アメリカと日本にミサイルを発射すると脅す。米海軍はSLBM(核ミサイル)発射能力を持つ原潜、アラバマを派遣する。ベテラン艦長のラムジージーン・ハックマン)に副長は新任のハンター(デンゼル・ワシントン)。司令部から指令が入る。反乱軍はミサイルの発射準備に入った。先制攻撃準備に入れ。ところが準備に入ったアラバマに接近していた敵潜水艦が魚雷を発射する.....

昨日の『レッド・オクトーバー』から4年、1995年の公開だ。監督はトニー・スコット。『トゥルーロマンス』それに『トップガン』。兄リドリー・スコットゆずりじゃないが、陰影がくっきりした派手目の画面イメージがある。ちなみに本作のビジュアル、どう見ても『レッド・オクトーバー』のイメージ、狙ってるよね...乗っかりすぎだよね...

さて本作の原潜は攻撃型(敵潜水艦や水上艦を攻撃する)じゃなく、戦略核ミサイルを積んだオハイオ級という艦だ。核戦争の火ぶたを切れる装備、だから発射は明確な指令を受けて、艦長と副官が同意しないとできない。本作は「発射するのか...!? いやまだしないのか....!?」的スリルがキモ。

その判断をめぐる、前の記事で書いた「コントロールルームの緊迫」を見せる映画だ。叩き上げ白人の艦長と高学歴アフリカンアメリカンの副長。最初はおだやかに艦に乗り込むが、すぐにポリシーの違いが表面化する。そして緊迫が頂点にたっしたとき、対立は一線を越えて.....

f:id:Jiz-cranephile:20200527202713p:plain

お約束の潜水艦バトルはもちろんある。敵艦の魚雷を受けて、攻撃を避け、反撃して...しかし本筋はそこじゃない。本作ではミサイル発射までの艦内の手順を丁寧に、何度も紹介する。手順、手続き、ルール、指揮系統の形。潜水艦の中を統御しているそんな見えない構造のなかでの対立劇が本作の見せ場だ。

戦地に着く前に艦長はミサイル発射準備の訓練をする。だいたいの所用時間が掴める。そして敵基地に近づくと司令部から無線指令が入る。指令は文章で送られ、艦内で印刷した指令書のコードナンバーと、保管してあるコードを印刷したカードを照合して、それが正当な指令であることを無線員や副長が確認する。核ミサイル発射の時は艦長、副長が同意してキーを回さなければいけない。それには兵器担当の同意もいる。

でも、戦闘が始まり、艦が損傷し、通信機能が故障して、想定していたみたいにすっきりと指令が解釈できなくなってくるのだ。もはやむき出しの対立だけがあらわになる。ただしそこはプロの軍人、ただの喧嘩じゃない。「手続きの正当性」をめぐる戦いなのだ。 本作は1960年代に実際にソビエトのミサイル原潜で起きた命令無視事件をベースにしているそうだ。

f:id:Jiz-cranephile:20200527202730p:plain

というわけで、本作も『レッド・オクトーバー』にビジュアルは寄せても勘所はちゃんと違えてきつつ、十分にスリリングで、それなりのリアリティも感じる、さすが佳作だ。対立する2人、ジーン・ハックマンは『許されざる者』でも見せた「横暴な権力者」キャラがはまる。ただの横暴野郎じゃなく、ルールの正当性には誠実なところが新鮮だ。じつはラストのちょっと意外な展開も、このあたりのキャラクター設定が効いている。デンゼル・ワシントンはまだ若くシュッとした善玉感にあふれ、かつマッチョだ。

映像はところどころトニー・スコットらしいCM映像っぽい格好いい切り取りがあって楽しい。海上から潜航に移る潜水艦を逆光のなかで見せるシーンなんていかにも彼らしいケレン味たっぷりの映像だ。

■写真は予告編からの引用

jiz-cranephile.hatenablog.com

 

潜水艦映画3本!(その1 レッド・オクトーバーを追え)

日々、こもっている訳である。ぼくの住む三浦半島の片隅には、路上にそんなに人もいないし(例の「神奈川に遊びにこないで!」キャンペーンの影響もあり)、じつは日々のびのびと海辺の空気を吸っているんだけど、そうはいっても行動半径はちいさいし、そんな時は、密閉空間で緊張感あふれる人々を鑑賞するのが逆にいい。

というわけで新旧潜水艦モノを3本連続で一気見。どれも米海軍が主役、だから敵役はソビエト、ロシアで、お話の枠組みはじつに同じだ。

 

レッド・オクトーバーを追え

f:id:Jiz-cranephile:20200526234641p:plain

f:id:Jiz-cranephile:20200526234728p:plain


<予告編>

ストーリー:ソビエトの最新鋭の弾道ミサイル潜水艦が就航する。艦長は名将ラミウス(ショーン・コネリー)。無音で高速航行できる装置を世界で初めて実用化したこの艦は米ソのパワーバランスを一変させる力を秘めていた。しかしラミウスは突如命令を無視した行動に出る。腹心の部下を連れてアメリカへの亡命を図ったのだ。CIAの専門家ライアン(アレック・ボールドウィン)は攻撃型原潜に乗り込み、母国軍に追われるラミウスの真意を確かめようとする.....

1990年公開。監督ジョン・マクティアナンは『ダイ・ハード』『プレデター』『ラストアクションヒーロー』などでおなじみ、アクションを飽きさせずに見せるタイプ、っていっていいんだろうか。本作、いうまでもなく潜水艦モノ名作のほまれ高い、いわば古典だ。なるほど面白い。そして今回見たアメリカ潜水艦モノの共通項がきっちり揃う。それは…

1. 国家の一大事が1隻の原潜に集約

    3本とも主役は原子力潜水艦だ。3作とも「米ソ(ロ)、一触即発」状況になり、国家首脳たちが固唾を飲んで潜水艦の行方を見守る。なぜか1隻が国家の命運をにぎるポジションになり、行く末は1人の艦長の肩にずっしりとのしかかる。 

2. 見せ場は魚雷戦 ソナー班が影のヒーロー

 潜水艦モノはド派手な海戦じゃない。水上艦が攻撃するときはミサイルや爆雷、魚雷など多彩な武器があるけれど、潜水艦のメインの武器はやっぱり魚雷だ。潜水艦バトルではかならず〈魚雷攻撃ーデコイ(おとり)で回避〉のセットメニューが盛られる。

深海で敵を探知するのはソナー班(正式名称は知らない→ソナーマンというらしい)たちで、どの作品でも指揮官じゃないけれど重要なポジションになる。

3. アメリカ=ロシア(ソビエト)の潜水艦乗り同士の国家を越えたリスペクト

 潜水艦乗りは、軍艦乗りの中でもスペシャリスト。もともと、特に海軍軍人は国を越えて1種の同族意識があるというけれど、潜水艦乗りはよけいにそうなのかもしれない。3作中2作は、敵国側の艦長との対面があり、おたがいのリスペクトが高まる展開だ。

4.コントロールルームが舞台

 3作とも主人公は艦長だ。操舵手、ソナーマンと作戦指令たちが集まるコントロールルームがドラマの舞台になる。深海では電波交信が断たれ、潜水艦は孤立する。艦長の判断が重くなるのだ。艦長と部下たちの意見が食い違い、緊張感が高まるシーンも欠かせない。

5. 狭い、見えない海底をすりぬける船体

 深海では視界は効かない。船は海図を頼りに速度と進行方向を計算しながら海底の地形を抜けていく。ドラマ上、どうしてもごつごつした狭い海底の水路を通過しないといけない。深い青の中、海底の岩すれすれにすり抜ける船体の映像が定番メニューだ。

f:id:Jiz-cranephile:20200526235556p:plain

本作は前半が1隻の原潜をめぐって米ソ首脳がそれぞれ手を打ち合う、ポリティカルサスペンス調。互いの艦は大西洋を進むだけで戦闘アクションはないが、ここが割としっかりしていてだれない。後半は潜水艦バトル、艦内アクションのパートになる。巨大なソビエト原潜がありえないくらいの運動性能を見せ、敵の攻撃型潜水艦とドッグファイトを繰り広げる。正直、あのサイズの巨大艦がそんなダイナミックに動けるとはいまいち思えないんだけど、まあ見せ場だ。1990年当時の、初期CGが特にバトルシーンでは多用される。素朴すぎてそこはさすがに視覚的快感がない。

全体の印象でいえば、あたり前だけど、さすが名作だ。飽きない。危機感の盛上げもわざとらしくない。ポリティカル部分も軽すぎず納得感がある。そしてキャストがいい。政治家たちも重みがあるし、なによりソビエト軍人を演じるショーン・コネリーのありがたみだ。カツラを付けて白髪になった彼は三船敏郎感もあって、じつに説得力がある。

もう一方の主人公ボールドウィンは好みじゃないが、彼が乗り組む原潜の艦長役、スコット・グレンがえもいわれずいい。グレンといえば『羊たちの沈黙』だが、本コラムでは『ライトスタッフ』の宇宙飛行士、意外なところで若い時に『ナッシュビル』も出てる。軍人役も多い彼だけど、マッチョというより冷静なプロの軍人という感じで、本作でも決してどなったり怒ったりしない、いい味の艦長だ。

本作の原潜は、アメリカ側は代表的な攻撃型原潜、ロサンゼルス級。亡命するソビエトの艦は世界最大級のタイフーン型に架空の推進装置が付いて性能がアップしている設定。見るからに巨大だ。

■写真は予告編からの引用

youtu.be

jiz-cranephile.hatenablog.com